南ア深南部 鶏冠山(北峰)(2204m)、池口岳(南峰)(2376.1m)、ダルマノ頭(2212m)、千頭山(1946.4m)、 2016年10月15〜16日  カウント:画像読み出し不能

所要時間

10/15 6:08 池口集落東の駐車余地−−6:14 車道終点−−6:20 池口川右岸−−6:23 2連堰堤を越える−−6:26 渡渉(シャクナゲ沢コース入口) 6:39−−7:28 シャクナゲ沢−−8:43 1510m肩(1540m峰北側)−−9:25 標高1610m(休憩) 9:55−−11:12 1696m峰北を巻く−−11:30 笹ノ平(休憩、荷物デポ) 11:43−−12:07 鶏冠山北峰−−12:21 笹ノ平(休憩) 12:50−−13:27 水を取りに尾根東に下り始める−− 13:30 標高2200m付近で給水 13:32−−13:34 県境尾根−−14:13 池口岳南峰−−14:43 ダルマノ頭(テント設営) 15:25−−15:35 小鞍部(猟師の泊まり場)−−(ダルマ崩迂回)−−15:51 千頭山へ続く主稜線−−(ダルマ崩迂回)−−16:06 小鞍部(猟師の泊まり場) 16:11−−16:32 ダルマノ頭(幕営)

10/16 5:52 ダルマノ頭−−6:02 小鞍部(猟師の泊まり場)−−6:06 1つ目のルンゼ横断−−6:10 2つ目のルンゼ横断−−6:12 千頭山へ続く主稜線−−6:19 岩峰で行き詰まり戻る−−6:25 岩峰西側を巻いて主稜線に出る−−6:37 ガレの横を通過−−6:39 1985m峰−−6:52 1970m峰−−7:07 千頭山 7:17−−7:34 1970m峰−−7:47 1985m峰−−7:50 ガレの横を通過−−8:11 ダルマ崩トラバース開始−−8:26 小鞍部(猟師の泊まり場)−−8:44 ダルマノ頭(休憩) 9:22−−10:04 池口岳南峰直下(kaisei1027さんと長話) 10:47−−10:51 池口岳南峰−−11:23 笹ノ平−−12:06 1696m峰北を巻く−−12:34 1536.3m三角点峰(休憩) 13:10−−13:18 1510m肩−−13:49 シャクナゲ沢−−14:10 池口川渡渉(水浴び) 14:18−−14:34 車道−−14:39 池口集落東の駐車余地

場所長野県飯田市(旧南信濃村)
静岡県榛原郡川根本町
年月日2016年10月15〜16日 幕営1泊2日
天候2日間快晴!
山行種類籔山
交通手段マイカー
駐車場池口集落から池口川右岸に延びる林道途中に駐車余地あり
登山道の有無全体的に踏跡〜獣道がある程度
籔の有無鶏冠山北峰〜笹ノ平、池口岳南峰周辺は脛〜膝丈の笹原。ダルマ崩直下〜千頭山間はシラビソ幼木がある区間があるが短い。藪としては容易な部類
危険個所の有無ダルマ崩の迂回路は急なルンゼの下りあり
山頂の展望どの山頂も展望は良くない
GPSトラックログ
(GPX形式)
1日目(池口〜犬切尾根〜笹ノ平〜池口岳南峰〜ダルマノ頭〜ダルマ崩迂回路)
2日目(ダルマノ頭〜千頭山〜ダルマノ頭〜池口岳南峰〜笹ノ平〜犬切尾〜池口)
コメント犬切尾根経由で池口岳南峰に上がり、ダルマノ頭から千頭山を往復。最大の難関はダルマノ頭南側のダルマ崩の迂回路ルートファインディングだが、合地山から見たダルマ崩の様子から西側から迂回することに。結果的には大成功でそこそこ安全なルートで最小限の標高損失で通過できた。全体的に藪は薄く歩きやすい


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1日目断面図(池口〜犬切尾根〜笹ノ平〜池口岳南峰〜ダルマノ頭〜ダルマ崩迂回路)
2日目断面図(ダルマノ頭〜千頭山〜ダルマノ頭〜池口岳南峰〜笹ノ平〜犬切尾〜池口)


池口川右岸沿いの林道に駐車 林道終点の廃村
廃屋の庭先を通過。この先は道は無い 東へ進むが河原から一段高い位置のまま
斜面を適当に下る 川沿いの廃林道に出た
廃林道終点からは護岸上を歩く 2連の砂防ダム
こんな看板ありだが立派な階段が設置されている 階段はこんな感じ
堰堤を越える 河原にはこんなマーキングが続いている
シャクナゲ沢コース入口 案内標識の裏側
標識裏手から急斜面を登った 斜め右に上がる道筋に合流
標高830m付近で尾根に乗るが傾斜は急 標高950m付近
標高1050m付近で左にトラバース開始 シャクナゲ沢
水量はこのくらいで渡渉は容易

シャクナゲ沢の東側の尾根のロープ

標高1100m付近 僅かに石楠花が見られる
所々で大きな枝が落ちている 近くの木には熊が木登りした跡あり
見上げると今年できたての熊棚 人の手が入った証拠(標高1300m付近)
境界標識も(標高1300m付近) 鹿避けネットが登場(標高1380m付近)
鹿避けネットからは西側の展望が良好 ワイヤーがかかった木(標高1410m付近)
犬切尾根に合流(標高1520m付近) 1540m峰は北側を巻いてしまう
1568m標高点までは二重山稜が続く 標高1590m付近で古びたコンパス発見
標高1610mガレの縁で休憩 標高1670m付近
標高1720m付近で岩が登場。下部から左を巻く 標高1900m付近。笹が連続するようになる
顕著なコブのある木(標高2000m付近) 鹿のヌタ場(標高2060m付近)
標高2060m付近から鶏冠山方向 標高2060m付近から北斜面を巻いた
藪は無く傾斜は緩くトラバースにちょうどいい

笹ノ平に突入

唯一?のテント適地 鹿のヌタ場も笹は無いがぬかるんでいる
笹ノ平から見たダルマノ頭と南西尾根 笹ノ平から見た鶏冠山北峰
笹ノ平から見た池口岳方向
笹ノ平から見た木曾御嶽 荷物をデポして鶏冠山北峰に向かう
笹がずっと続くかと思ったらそうでもない 鶏冠山北峰山頂
樹林の隙間から見た仙丈ヶ岳 デポ地到着。池口岳南峰に向かう
笹ノ平から見た西側の展望
笹ノ平から見たシラビソ高原 笹ノ平から見た東側。明日は千頭山の稜線を歩く
笹ノ平を北上 笹ノ平から見た合地山と諸沢山
標高2110m付近で笹が切れる。幕営適地あり 標高2140m付近
標高2200m付近の軍手 軍手の場所から水汲みへ向かう
笹の斜面をトラバース。踏跡無し 沢に接近すると急斜面のトラバース
沢に到着。かなり急 水量は充分
帰りは往路より上をトラバース 帰りのルートの方が安全
県境尾根に戻る 標高2280m付近。これ以上は岩が多く尾根西側を歩く
池口岳の高さに徐々に近づく
標高2320m付近 最後の急登をよじ登る
肩から上はなだらかで道も比較的明瞭 池口岳北峰分岐標識
池口岳北峰との合流点 池口岳北峰との合流点
池口岳南峰に向かう 樹林の隙間から見た聖岳方面
樹林の隙間から見た光岳 池口岳南峰山頂。ここだけ笹が切れる
ダルマノ頭へ向かう この目印はよく目にした
たま〜に古い赤ペイント。千頭山まで続く 標高2220m付近。ダルマノ頭が見えた
2180m鞍部 明らかに人工的な切り口
標高2190m肩のヌタ場。幕営適地あり ダルマノ頭山頂
ダルマノ頭山頂で幕営 テント設営後、ダルマ崩迂回路偵察に向かう
南西尾根を下る。藪無しで尾根は明瞭 標高2110m付近の赤布。ここで右に迂回が正解だった
赤布から直進すると幼木籔と岩場 何とか岩場をクリアして鞍部へ(猟師の休み場)
鞍部から南東に落ちるルンゼを下る ゴミ発見
ルンゼ下降中 ヤバくなったら右の尾根に逃げる
岩壁基部でルンゼをトラバース 倒木を越えて小尾根に登る
何となく道があるような? 尾根の東に回り込んでトラバース
次のルンゼ下降点の目印 ルンゼを横断
斜面を適当に登る 登り終えれば千頭山へ続く主稜線に乗る。偵察はここまで
主稜線からダルマノ頭側を見る。すぐ上は岩壁帯 稜線東側の絶壁
帰路の最初のルンゼトラバース個所 小尾根を越えて西側のルンゼへ
西側のルンゼトラバース地点 このルンゼをよじ登る(正確には左側の小尾根)
鞍部(猟師の休み場)に到着 アルミ鍋発見。目印として鞍部に置いた
鞍部東の岩稜帯は北側で簡単に巻けた 往路で通過した岩稜帯
急な登りが続く ダルマノ頭到着。本日はこれで終了
テントの上に標識があった 夕暮れの合地山。登っている人がいるかな?
朝が来た。今日も好天 南西尾根を下る
昨日の偵察で大量の「時限式目印」を残した 鞍部到着
ルンゼを下降 ルンゼを横断
ルンゼから上を見上げる 2つ目のルンゼ横断
主稜線に乗った 千頭山方面はシラビソ幼木籔
藪を抜けると岩っぽい急な登り ピークのてっぺん
ピークの南側は絶壁で下れなかった 鞍部まで戻って西を巻く。歩きやすい植生
2050m鞍部 2060m峰への登り
ダルマ崩を振り返る 2060m峰前半は幼木籔
2040m肩 2040m肩から下り始める
2040mより下の急斜面はガレが覆っている ガレに沿って下っていく
1940m鞍部の手前 1940m鞍部
1970m峰東側のヌタ場 1930m付近。道形があったような木の隙間の連続
1930m鞍部付近の標識 笹ノ平が見えた
千頭山山頂 三角点
山頂標識 久々に見る深南部に多い標識
山名が消えている? これらの解説板だけが妙に新しく見える
帰りがけに発見した切断跡 帰りがけに発見した赤ペイント
帰りがけに発見した赤ペイント 帰路は2060m峰の西を巻いた
この先は岩峰なので西を巻く 岩峰巻道の赤ペイント
岩峰巻道の倒木処理跡 岩峰巻道の赤ペイント
往路より低い場所でルンゼに出たが渡れなかった 往路で渡った場所へと上へ移動
猟師の泊まり場南の岩から見た南側の展望
猟師の泊まり場。今後は鍋が目印 岩尾根を北から迂回
ダルマノ頭南西尾根も人の手が入った痕跡 ダルマノ頭到着
大ザックを背負って池口岳へ 登りは苦しい
ここでも切り株 気持ちのいい尾根だが足は重い
鹿に食われた跡 昨日より空気の透明度がいい
池口岳南峰直下でkaisei1027さんと遭遇 池口岳南峰山頂
池口岳南峰北側から見た加加森山と南ア南部
県境尾根を笹ノ平へ下る 矮小シラビソの急傾斜
笹ノ平から鶏冠山方面を見る
笹ノ平から見た中央アルプス核心部
笹ノ平から見た木曾御嶽 帰りも鶏冠山北峰は巻いてしまうことに
鹿道でトラバース 犬切尾根まで歩きやすい植生が続く
往路より低い地点で犬切尾根に乗る 1535.8m三角点で休憩
鹿避け柵を通過 シャクナゲ沢を通過
かなり古い標識 往路より東側で池口川に降り立つ
デポした長靴は健在 流れは切り立った左岸に接している
右岸の梯子で堰堤を越える 梯子の下り
廃林道終点に出た 廃車
廃車の反対側には打ち捨てられた仮設トイレ 石垣の斜面を登る
斜面上は廃村。この家はかなりきれい 林道はこの状態。車で入りたくない
シャクナゲ沢コース下部ですれ違った人の車 我が家に到着。お疲れさまでした


 千頭山は南ア深南部、池口岳南峰から南東に派生する太い尾根上に位置する。私にとっては深南部主要部(旧水窪、川根本町、井川ダム以北の静岡市)で地形図に山名が記載された山で唯一の未踏峰だ(と思っていたが、後日、六呂場山が残っていたことが発覚)。よって以前から大いに気になっていた山である。

 昔は林道が交差する尾根末端から山頂まで登山道があり、千頭山の会だったか、年に一度バスを出して登山できたのであった。当時から林道にはゲートがありマイカーは入れず、寸又温泉から林道歩きをすると千頭山登山口まで1日では達しないくらいの距離があった。今では林道崩壊が激しく危険すぎて林道経由のアプローチが不可能となり、登山道も使われなくなって久しい。

 千頭山の尾根を北西に辿ると池口岳南峰に達するので、池口岳南峰から往復という手も考えられるのだがこのコースには大問題がある。登山道が無いのは許容範囲としても、2212m峰(ダルマノ頭)から2060m峰に下る斜面が異常なほどの等高線の密度で、地形図では表記されていないが実際には岩壁を形成している(ダルマ崩と呼ばれている)ので尾根通しで下るのは不可能なのだ。この崖をいかに迂回するかがポイントで、一度ダルマ沢か柴沢に下りて適当な枝尾根から登り返すのが一番の安全策と思え、合地山の稜線からそれをやろうかとも考えた。

 しかしネットで検索するとダルマ崩のすぐ西側を迂回している記録が何件か発見できた。ただしあまり詳しいルートの記述は無く(写真撮影したりする余裕は無かった?)、ダルマノ頭から南西尾根を下って崖を迂回するという大まかなコース取りしか分からなかった。しかし複数パーティーが岩装備無しで通過に成功しているのだから私にもできそうな感触だ。私の場合、過去の藪山でも岩を巻くルートはたびたび出くわしており、安全なルートを見出す能力についてはそれなりに自信がある。池口岳から往復するのなら1泊で行けるので週末に実行可能となる。

 池口岳南峰までのルートだが、池口岳北峰は登ったことがあること、帰りの登り返しが少ないことから鶏冠山西尾根(犬切尾根)を使うことにした。鶏冠山〜朝日山にかけての周回でDJF氏も使ったことがある尾根で、氏はモノレール軌道横を登ったが、ネットで検索すると現在はシャクナゲ沢コースというのが主流だと分かった。ただし池口川を渡る必要ありとのこと。今回は長靴を用意した。

 私の体力では日帰りで千頭山往復は不可能なので、どこかで幕営する必要がある。ネットの調査では一般的には水場が近い笹ノ平が幕営場所としてよく使われているようだ。しかしこれは池口岳〜鶏冠山と縦走する場合の話で、池口岳を越えて千頭山往復の場合は笹ノ平で初日を終えると2日目が非常にきつい。できればもっと先に進みたいところで、その場合は余計な登り返しがない池口岳南峰が候補となろう。うまい具合に山頂は笹が切れているらしい。水は笹ノ平から池口岳方向に登る途中でも得られるそうだ。

 長野市から旧南信濃は遠い。高速を飛ばして2時間弱で飯田IC、そこから矢筈トンネル経由で現地まで約1時間だった。今は道がよくなって矢筈トンネルから遠山郷市街地まで広くカーブが緩やかな道が続くようになってスピードアップだ。ただし池口集落へは旧国道しか入ることはできない。カーナビに従って旧国道から左へと入り高度を上げ、池口川を左岸から右岸へと渡る橋を通過する。左岸側にも車道があるが今は入口でチェーンがかかっていて入れなくなっていた。それに上流の大堰堤は右岸側に梯子がかかっているので左岸からスタートすると余計な渡渉が必要となるため、今回は右岸側の林道からスタートとした。

 池口岳登山口へは池口集落入口で左に大きくカーブするが、池口川右岸の林道は狭い道を直進だ。舗装はされているが軽自動車でないと通行は無理な道幅であった。地形図だとこの先に人家マークがあるが、路上の落石の散乱具合から推測するに今は無人となってしゃどうはほとんど使われていないように思えた。かなりヤバそうな雰囲気なので山側を削って造成された駐車余地に車を置いた。なお、集落内は駐車スペースはないので、車を置くなら池口川にかかる橋の左岸側の廃資材置場くらいしかないと思う。

 正式登山道は最初から無いので充分明るくなってから出発。実は前日から風邪の症状が出て、昨夜は微熱に頭痛で登山可能か自分でも分からない状態で家を出たが、当日朝には症状は緩和されていた。暖かくして寝たのが良かったかも。しかし山の上でぶり返しては下山が危うくなるので防寒装備は過剰なくらい持っていくことにした。銀マットは2つ、防寒用のズボンにジャンパー、使い捨てカイロなど。重くはなるが仕方がない。水は途中のシャクナゲ沢と笹ノ平付近で得られるので出発時は500ccほど。今回はヤバいルートが含まれるため、車のフロントガラスから見えるように登山届を置いた。これで地元民に怪しまれることもないだろう。

 朝の気温は10℃ほどだが今週末は好天が予想され、日中は気温が上がってヒルが活動を再開する恐れもあったのでヒルの忌避材を登山靴にスプレーし、下山時に使う分として小分けしたボトルを持っていくことにした。

 林道を進むと終点で廃村が登場。草ぼうぼうで人が住んでいる気配はない。地形図だとこのまま直進方向の林道が一番奥まで続くはずが、実際には直進の道はここで行き止まりとなっており、右斜めに下る方向の林道に入る。しかしこれも廃屋で終点となってしまい、あとは適当に上流方向へと進む。石垣で仕切られた畑のような開けた場所を通過すると杉の植林帯へ。まだ川から高い位置にいるので適当に斜面を下って川の方へ。すると地形図に記載がないが車道と思われる草ぼうぼうの開けた場所があり、廃車もあった。

 この廃道を上流方向に僅かに進むと砂防ダム手前で車道終点で、護岸上を歩くとダムを越えるための立派な仮設階段が登場した。国土交通省の立入禁止看板があったくらいなので釣り人の為ではなくダムのメンテ等のものと思われる。堰堤は2連続で階段も短い間隔で2つ登る。

 ダムの上流側は広範囲に土砂が堆積して広い河原を形成して、水の流れは左岸に接していて、左岸は岩壁でへつるのは不可能な地形だった。やはり右岸からのアプローチが正解だった。ただしシャクナゲ沢コース入口は左岸にある。位置が分かるかちょっと心配だったが最初の小尾根突き出し地点に白い案内標識があり、杉の倒木が丸木橋のようにかかっていたので簡単に分かった。倒木を見てラッキーと思ったが、この杉は表皮はなく朝露で濡れた表面はツルツルでとても歩ける状態ではなかった。池口川の流れはそれほど大きくなく場所を選べば飛び石で渡れそうな雰囲気であったが、ちょうどいい位置に石がない。せっかくなので長靴に登場してもらう。靴下を脱いで長靴でジャブジャブと渡ったが、水深は脛くらいで持ってきた長靴の丈より深いため水没だ。冷えた朝から冷たい水は風邪気味の体には良くないなぁ。とは言え水に入っている時間は10秒程度しかかからない。帰りはまたここを通過するので渡り終えると長靴は岩陰にデポした。

 シャクナゲ沢コース標識のある場所から登り始めたが踏跡は薄く、ピンクリボンを頼りに植林の急斜面を登っていく。途中から右にトラバース気味に登っていく踏跡に合流、逆側はこのまま斜めに下るような跡で、たぶんこちらが正解だろう。標識がある場所より上流側に出るはずで、帰りに辿ったらそのとおりであった。

 急斜面のトラバースを終えて尾根に乗る頃には人工林から自然林に切り替わるが、この尾根の傾斜もなかなかのもので重いザックには堪える登りだ。道は不明瞭で薄い踏跡程度だが目印が頻繁に出てくるし、藪は皆無でどこでも歩ける状態なのでしばらくは尾根を外さないよう登ればいい。ただしシャクナゲ沢コースはこの尾根の東を流れるシャクナゲ沢を横断してお隣の尾根に乗り移る地点があり、まっすぐ登り続けるわけにはいかない。自由に歩きながらも目印は気にしながら進む。

 標高1000m付近で道は左にトラバースし始めた。シャクナゲ沢に面した斜面は踏跡ではなく獣道の道幅で足元が崩れないように注意しながら進んだ。シャクナゲ沢はしっかりと水が流れているが簡単に渡れる程度の水量。しかし水汲みには充分な流れがある。ここまで水は消費していないので補給もしなかった。

 対岸の斜面に付いた道も獣道程度の濃さ。尾根に出ると下ってきたときにそのまま尾根を直進して下りすぎないよう細引きが張ってあった。この尾根上もこれまで同様に道があるような無いような、でも藪は皆無の状況で目印のピンクリボンが続く。

 所々でまだ青い葉が付いたミズナラ類の枝が地面に落ちているのを発見。最初は台風等の強風で折れた枝かと思ったが、周囲を見渡しても特定の木の周囲にちょろっとある程度だし、枝が折れるほどの強風の場合は葉やもっと小さな枝が飛ばされて地面を埋め尽くしているはずだがそれがない。こんな場合、過去の経験では熊棚作成中に熊が落とした枝の可能性が高い。事実、落ちた枝の近くにはどんぐりの実を付けるコナラ属の木があり、見上げると今年作られた新品の熊棚があった。コナラ属の幹は大きな凸凹が多くて熊の爪痕が残りにくいが、よ〜く見ると残っている木もあった。あちこちで熊棚を見たのでここを歩くときは熊避けの鈴は必須だろう。

 標高1380m付近では右側(西側)斜面に鹿避けネットが登場。西斜面は植林して数年程度らしく木の高さが低くて展望が開けている。ここまで樹林の中で展望皆無だったのとは対照的だ。植林のため索道に使ったのだろうか、ワイヤーがかかった木があった。

 さらに高度を上げると唐松植林帯に変わり、犬切尾根までもう少しだ。1510m肩で犬切尾根に合流、ここも北側斜面は唐松植林帯である。なだらかな地形なので尾根の真中まで登らずに北を巻いたまま東へと進む。どうせこの先に鞍部があるので登るだけ無駄である。尾根直上に出ると目印あり。これまでと同じくピンクリボンもあるが赤テープ等の他の目印が混じるようになる。道の状況もこれまで同様で、明瞭な道があるわけではないが藪は皆無で歩きやすい。尾根を外さない範囲で自由気ままにルートを取れる。

 犬切尾根合流からしばらくは二重山稜が続き、1536.3m三角点峰近くも広い尾根なので北側を巻いてしまう。基本的には左右どちらの尾根でも大丈夫だと思うが、往路では鞍部の高度が高そうな方を選んで進んだ。帰りはほとんど南側を通ったと思うが往路と大差なかった。

 標高1600m付近で尾根が収束すると同時に北斜面の唐松植林帯が終わって全体が自然林に変わる。これまではブナなどの落葉樹が目立ったがこの標高だとシラビソが主流となり、すぐにシラビソの純林に変わった。地面付近は藪は皆無、これが北信の山だと間違いなく笹や潅木藪だろう。南アは一部エリアを除いて歩きやすくていい。そんな植生が鶏冠山北峰まで続く。1590m付近では古いコンパスが落ちているのを発見。落とし主はその後の行動に困ることが無かったのかちょっと心配。目印代わりに近くの境界標石の上に置いた。

 1610m付近、地形図で尾根南側直下にガレマークがある場所で最初の休憩。ここはガレで南が開けて唯一の日当たり良好な場所で、気温が下がった時期には日向ぼっこしながら休憩に最適だ。正面は長野/静岡県境尾根。顕著なピークがないのでどの辺りが見えているのかは分からなかった。この天候では今週末は歩いている人がいるかもしれない。

 1696m峰は北側から巻いてしまう。標高1720m付近で尾根上に岩が登場するが、これは最下部だけ登れば左へと巻くことが可能。岩から上部は急な登りで適当にジグザグを切って登る。標高1800m付近からは低い笹が徐々に目立つようになるが断続的で長続きしない。連続し始めるのは標高2050m以上らしい。笹の高さは最初は足首程度でその後は脛くらいで視界を遮らないし足への負荷も軽い。北信の笹や根曲がり竹とは比較にならないくらい楽だ。標高2000m付近では幹の途中が膨らんだ大きなコブを持つ木が目立ち、いい目印になる。

 標高2050mの平坦地から登り始める地点で尾根北側を巻いて鶏冠山北峰へは登らずに笹ノ平へ直接出ることにした。鶏冠山北峰は未踏なので登るつもりだが、わざわざ大ザックで登る必要はなく空身で往復の方が無駄がない。幸い、鶏冠山北峰の北斜面は傾斜は緩やかで笹もほぼ無く鹿道が無数に走っているので、トラバースするのに適した地形だった。シラビソ樹林の中を高度を落とさないよう鹿道を選びつつ進んでいくと前方が明るくなると同時に膝丈の笹原に変わり、笹ノ平に到着した。

 笹ノ平は2070m鞍部を中心とした広範囲の立木皆無の笹原であった。もちろん見晴らしは抜群で、西には蛇峠山〜大川入山〜恵那山〜中央アルプスが、東には信濃俣、大無間山、寸又峡温泉周辺、そして合地山から中ノ尾根山など深南部の山々が一望だ。

 笹ノ平は残念ながら2,3個所を除いて一面の笹で、テントを張れる場所は非常に限定される。そのうち1箇所は鹿のヌタ場なので除外か。他2箇所が「鹿のトイレ」でないことを祈ろう。以前、中ノ尾根山北側鞍部付近で幕営した際に、笹原の中で唯一の裸地は「鹿のトイレ」で鹿の尿の匂いが非常にきつく、下山後は川でテントを洗濯する羽目になった経験がある。鶏冠山方向の西寄りに少し登れば笹はすぐに消えるのでそちらにテントを張るのが正解だと思う。鞍部から東へ少し下ると沢の源頭で水が得られるそうだが、池口岳南峰方向に登った場所でも水が得られるとのネットでの調査結果が得られており、そちらの方が水を担ぎ上げる距離、標高差が少なくなるのでここでは水を汲まなかった。

 笹ノ平で荷物をデポして鶏冠山北峰を往復する。ここは地形図にも山名事典にも山名は記載されていないが、ここまで来て山頂を踏まないのはもったいない。左に見える顕著な尾根の西側斜面を登ることにしたが、後で地形図を見たら右側のなだらかな尾根が県境稜線で、その後は尾根地形が消えて広い斜面に県境があるのであった。

 鞍部から少し進むと笹が切れて歩きやすくなる。尾根上を歩きたいがそちらはずっと笹が続いている模様なので斜面を適当に登っていく。目印、踏跡は無いが藪もないのでどこでも自由に歩ける。やがて低い笹が出てくるが笹ノ平よりも背丈も密度も低いので、それほど障害にはならない。

 傾斜が緩んで鶏冠山北峰山頂に到着。南峰は地面が露出していたように記憶しているがこちらは笹原に覆われていた。大きな山頂標識あり。これを担ぐのは大変だっただろう。樹林に囲まれて展望は無かった。復路も適当に下って笹ノ平に達した。デポしたザックは笹に埋もれて遠くからは見えないが、周囲の地形からおおよその場所は判断可能で、2,3mまで接近してやっと見えたときにはほっとした。最終主段としてザックデポ地をGPSに登録しておいたのだが出番がなくてよかった。

 笹ノ平付近も登山道があるわけではなく鹿道を適当に繋いで歩くことになる。ほぼ県境稜線上を進んでいく。2106m峰北側の標高2100m肩付近で笹が切れるようになり、テントを張れそうな場所が散見された。

 問題は水をどこで汲むかで、右手(東)の沢音に注意しつつ県境尾根を登っていく。まだ沢までそれなりに下る必要があり、もっと近づいてからの方がよさそうだ。県境尾根は尾根直上付近が低い笹で西側の緩斜面は笹が無く歩きやすいのだが、そちらを歩くと沢音が聞こえないので笹の尾根上を登っていく。どうも踏跡は尾根西側を通っているようで、尾根上では目印はほとんど気付かなかった。

 標高2200m付近で軍手が落ちている場所に到着、右手斜面の先にピンクリボンが見えた。低い笹の斜面をトラバースすれば沢まで数分程度と思われるので踏跡は無いがここで水汲みに向かう。真横にトラバースして目印を通過、沢の真横に出るが急斜面で下るのは不可能、開けて木が無くトラバースもちょっとリスクがあるような斜度だった。もう少し上からトラバースするのが正解らしい。足元に注意しながらトラバースして沢に到着、水量は充分である。見上げる沢はかなりの傾斜で沢沿いを登るのは無理がありそうだ。私が水を汲んだ直下は短い滝になっているし、登ってくる途中でも滝が見えた。

 帰りは往路よりも歩きやすそうな斜め上にトラバースして尾根に出たが、こちらの方が安全で距離も短かったようだ。ネットの情報では水場標識があるとの話だったが、往復とも標識を発見することはできなかった。

 水を汲んでさらに重くなったザックで登る県境稜線はきつい。かなりの斜度である。やがて正確な尾根直上は岩っぽくなってきたので西側斜面を登っていく。最後はかなりの傾斜で、矮小なシラビソが生えた壁を攀じ登るような感じだった。ただし木があるので危険性は少ない。でも大ザックが木に引っかかり、横に付けた銀マットが一部千切れてしまった。

 よじ登るとそこは岩峰の上だった。ここで傾斜がようやく緩み尾根上を歩けるようになる。そして僅かな登りで池口岳北峰からの道に合流。ここには文字が消えた古い木製標識と「笹の平下降点」の真新しい看板が設置されていた。

 ここから池口岳南峰山頂まですぐそこだ。樹林の切れ間から南ア南部の3000m峰を見ることができるが、まだ雪の白さは皆無だった。そして無人の池口岳南峰山頂に到着。もう午後2時過ぎなので他に人はいないのは当然だろう。ネットで見たとおりに山頂付近のみ笹が切れた平坦地があり幕営可能だった。ただし完全な水平ではなくちょっと斜めであるが。山頂は樹林に覆われて展望は良くなかった。確か北峰も展望は悪かったような記憶がある。

 ここで逡巡。山頂で幕営してもいいが、明日朝にここを下るとなると朝露で濡れた笹を分け入る必要があり、ズボンや登山靴が大いに濡れることが予想される。おそらく標高が落ちれば笹が無くなり地面が露出したシラビソ樹林になるはずで、テントを張れる場所が期待できる。少なくともダルマノ頭まで進んでみるのが正解だと判断した。ただし、この先に本当に幕営適地があるかは事前調査はしておらず、リスクがある選択だ。でもネットで見たダルマノ頭の写真は地面が出ていたような記憶が。それに賭けてみよう。

 この先はこれまで以上に人の気配が無くなるエリアに突入する。しかし植生はこれまでどおりで脛の高さの低い笹と背の高いシラビソ樹林。視界良好で地形も明瞭で、地形図で読図する必要は皆無だった。意外にも尾根上には古びた白い荷造り紐の目印が散見され、予想以上に歩く人がいるようだ。ということはダルマ崩の迂回路も意外に容易に見出せるかもしれない。

 徐々に高度を落としていくがなかなか笹が切れなくて心配になるが、標高2250m付近から切れはじめて2180m鞍部から先は完全に笹が消えてくれた。あとはテントが張れる程度の平坦地さえ探せばOKだ。登り返してダルマノ頭手前の2190m付近では鹿のヌタ場周辺に平坦地がありここで幕営しようかとも悩んだが、ヌタ場があるということは鹿が頻繁に訪れるはずで夜中に近くでガサゴソやられるのも迷惑だし、逆に鹿にとってもこんな場所に人間が居座るのも迷惑だろう。ダルマノ頭が幕営不適地だったらここに張ることにして先に進んだ。

 僅かに登るとダルマノ頭山頂。幸い、ほぼ平坦なテント適地がありここで幕営に決定。南西側はダルマ崩の急斜面で視界が開け、3つのピークを持つ合地山がよく見えていた。風はほぼ無風だが念のために全ての張綱を張っておく。

 テント設営が終わって時間的余裕があるので、今日のうちにダルマ崩迂回ルートの偵察に出かけることにした。気温が高く大した防寒具は不要と判断し、ほぼ空身で15mのロープとヘッドライト、「時限式目印」用の黄色い紙テープをウェストポーチに入れて出発。明日のために目印を付けながら下ることにした。また、出発時刻が午後3時過ぎで、主要時間が読めない場所を進むので帰りが暗くなる可能性もある。その意味でも目印は必須だろう。使うのは紙テープなので数回の降雨があれば溶けて地面に落ち、そのうちに自然に帰る優しい素材で、回収の手間が省けるという大きなメリットがある。

 南西尾根は明瞭な地形で間違いようがない。ここも笹は皆無でやや背の低いシラビソに覆われているが、尾根の先は充分に見通せる。何となく道があるような無いような状況はこれまで同様である。傾斜は急だが木が多いので危険は感じない。

 下っていくと古びた赤布が登場。やはりこのルートで迂回する人がいるのようだ。その先は植生が変わってシラビソ幼木の藪に突っ込む。しかしその下は岩場になっていて直線的には下れず、左側の幼木藪の中で藪に掴まりながら強引に下った。

 降り立った場所は小広い鞍部でテントが張れるような場所だった。帰宅後にネットの記録をあらためて読んでみると、写真の状況からして「猟師の泊まり場」と呼ばれる場所に間違いなかった。なかなかいいネーミングである。

 鞍部から南東側には顕著なルンゼが落ちており、ルンゼの左は岩壁帯で通過は不可能だが右側はシラビソが生えた普通の斜面で使えそうだ。ここを下って岩壁帯の基部を探すことにする。ルンゼ上部にはゴミがあり歩いた人がいるのは確実だ。途中まではルンゼを下ったがかなりの傾斜で浮石で足元が怪しくこのまま下るのはヤバいと判断、右手のシラビソの斜面へ逃げて木に掴まりながら下っていく。

 標高差にして鞍部から数10mで、それまでルンゼ左側は岩壁だったのが斜面へと変貌。ここならトラバース可能だ。ルンゼに下ってルンゼを横断、岩壁基部を横切って倒木を乗り越えて東側の小尾根に上がる。そして東へとトラバースする獣道?を辿ると古い目印が登場し、次のルンゼが現れる。ラッキーなことにここはほとんど下らないところに岩壁帯の基部があり、容易にトラバース可能だった。そしてシラビソの斜面を登れば主尾根に乗ることができた! 予想以上に順調にルート開拓が完了し、しかも予想以上に安全性が高く補助ロープの出番は皆無だった。おそらく先人の迂回ルートも同じだと思う。この迂回ルートより上は岩壁帯であり、立ち木があるので部分的にはトラバースできるかもしれないが、危険度は今回のルートより格段に上だろうし、おそらく通過時間もかかるだろう。

 このまま千頭山まで足を延ばしたいところだが、GPSによるとここから千頭山まで直線距離で約1.5km。道のりと高低差を考えれば行くだけで1時間はかかりそうで、ダルマ崩迂回路に戻る前に真っ暗闇になるのは確実だ。さすがにこれはリスクが高すぎるので素直に戻り、明日朝にアタックすることにする。

 往路をほぼ忠実に辿って小鞍部へ。僅かに北側には穴の開いたアルミの鍋が落ちていたので目印にと広場中央に逆さに置いておいた。強風で飛ばされない限りは今後のいい目印になるだろう。往路でシラビソ幼木藪漕ぎした岩尾根は北側から簡単に巻くことができた。尾根の北側は藪皆無の歩きやすいシラビソ樹林で獣道らしい筋もあり、赤布はこちらへ導くための起点だったようだ。

 急な南西尾根の登り返しは苦労するが危険はないので気楽ではある。テントに戻った時には山頂にはまだ日差しがあってテントの中は暖かかった。考えてみれば出発当初は風邪気味の体調が心配だったが、動き始めてしまえば風邪のことはすっかり忘れてしまうくらい普通の体調に戻ってしまった。でも夜の冷え込みで風邪がぶり返す可能性もあり、ゴア以外の持ってきたものを全て着込んで寝たら暑くもなく寒くもなくちょうどいい温度だった。夜間の最低気温は+2,3℃で予想以上に暖かかった。これも東海地方まで南下して寒気から離れている影響だろう。

 夜も快晴が続いてシラビソの葉の隙間を通して月明かりが見えていた。すぐ北側の鹿のヌタ場があるテント場候補地からは夜中に鹿の鳴き声が。やっぱりダルマノ頭で幕営して正解だったようだ。

 翌朝、明るくなってから行動開始の予定だったので4時半起床。今日も好天で空は星空で周囲には夜露が降りているかと思いきや、テントは全く濡れていない! これはラッキーで、この先に藪があってもゴアの出番はなさそうだ。でも念のためにアタック装備にはゴアを入れるけど。

 朝飯を食って出発準備を終えても周囲はまだ充分な明るさに達しなかったのでテントを片付けることに。デポする荷物は大型ビニール袋に入れて山頂に置いておく。この天気なら雨に濡れる心配はないが、デポした食料を野生動物に食われないための処置でもある。計画では往復3時間程度と見ているが、実際はどうだろうか。

 ダルマ崩の迂回路は昨日の偵察で完璧に頭に入っているし、自分の目印が乱打状態なので迷う心配もなく千頭山へ続く主稜線に到達する。稜線東側の垂直な岩壁帯は朝日に照らされていた。

 もう何の心配も無いと思いきや、いきなり最初から躓くことになった。地形図では主稜線に復帰して最初のピークは南北に細長い2060m峰なので素直に尾根を登り始めたが、どうも地形図と違ってやたらに急な登りである。それに植生がこれまでの背の高いシラビソから矮小なシラビソに変わる。これは悪いサインで岩の出現を意味することが多い。いやな予感は的中し、てっぺんに登りついたのはいいがその先は藪でよく見えないがほぼ垂直に落ちた岩場だ。地形図に表記されない岩峰が存在したのだった。ここは通過不能なので鞍部まで戻り、西側のシラビソ樹林を迂回することした。先ほど登ったピーク側の斜面は岩場であるが、ちょうど岩の基部を回り込むように獣道らしき筋があり、標高を落とすことなく岩峰を迂回して次の鞍部に出ることに成功した。西巻きが正解ルートだろう。

 次のピークが2060m峰であるが、尾根上はシラビソ幼木が茂っている。ここも西側が背の高いシラビソ樹林で歩きやすそうなので迂回しようかとも思ったが、藪は入口だけかもしれないと尾根上を直進することに。しかし幼木の藪は意外に長続きしてしまい、結果的には西から巻くのが正解だった。長いピークの半分くらいまで来れば幼木藪が消えて歩きやすくなった。

 実はダルマ崩れ以外にもう一つ心配事があった。2060m峰南側の尾根直上は等高線の混み方からして崖であることはほぼ確実で、迂回の必要があると予想していたのだ。しかしネットの記録ではそのような記述は一切無く、どのようなルート取りをしているのか気になっていた。特段の記述がないので普通に通過できるのだと思うが、尾根を外れて歩くのだろうからルートファインディングは大丈夫であろうか。

 2060m峰から南へと下り始める。最初は傾斜が緩やかで尾根の幅も広いが傾斜が出てくると尾根が収束してルートを見極めやすくなる。やがて右手の斜面の樹林が突然開けた。予想通りのガレの出現だ。しかし予想と違って尾根の西側だけが崩れていて東側は生き残っており、ガレの縁=尾根直上を下っていけば良かった。しかも傾斜は地形図ほどではなく普通に歩ける斜度だった。確かにこれでは特段の記述がないわけだ。ガレの縁なので西側の展望は良好で、中ノ尾根山から合地山、そして諸沢山と続く尾根の様子が丸見えだ。鞍部でガレは終わり再び深いシラビソ樹林に突入した。

 この先はもう問題となりそうな個所はなく、倒木は多いが尾根を淡々と辿るだけだった。歩きやすい木の間隔が広いところを拾いつつ進むことが多いが、周囲をよく見ると切り口がきれいな倒木、切り株が散見され、少なくとも一度は人の手が入ったようだ。往路では目印は一切気にせず尾根を外さないことだけ注意して周囲を観察していたが、帰りには目印等を気にしながら歩いてみたら、切り口が平らな木や古ぼけた赤ペイントが千頭山から池口岳まで点在していた。林道が使用可能だった昔の方がこの尾根は歩かれていたように思われた。また、ダルマ崩迂回路以南はあちらこちらに幕営できそうな平坦地があった。

 1920m峰は僅かに東を巻いてしまう。ここには鹿のヌタ場あり。この付近は古いエアリアマップ(1992年版)では千頭山から破線が書かれているが、今となっては道の存在はほぼ判別できなかった。ただし藪は皆無なので好き勝手にどこでも歩けるが。たまに出現する古い倒木処理跡だけが、かつて存在した道の形跡だった。

 ならだかな尾根を登りきって平らになると千頭山山頂に到着。ここで一番目立つ存在は山頂標識ではなく木に付けられた木の種類の解説板。妙にピカピカで新しく見えて、この場所では浮いた存在だ。深南部でよく見かける黄色の地に赤い両矢印マークは今回初めて登場、文字は消えてしまっているが私がやってきた方向は「大無間」「光岳」「池口岳」の3つの山名が重なって書かれていたような痕跡を読取れた。やはり昔は今よりずっと今回のルートを歩く人が多かったようだ。おそらくその当時はまだネット時代が到来する前で、今の時代にネット検索をしても僅かな数しかヒットしないのであろう。

 当然の如く山頂は樹林で展望皆無。四方を石に囲まれた三角点が鎮座している。今は難関となってしまった千頭山にこの秋に訪問者は他にいるだろうかなんて考えたが、まさか当日にもう一人やってくるとは想定の範囲外だった。あまり疲労は感じなかったし帰りの時間もあるので、僅かな休憩で帰途についた。

 往路で尾根上の様子が分かったので2060m峰と次の岩峰は西を巻いた。2060m峰西側はやや傾斜がきつく歩きやすいとは言えないが、稜線上の藪よりは格段に良かった。ダルマ崩の迂回路へは往路を辿らずに手前の鞍部から鹿道と思われる筋でトラバースしたが、最初のルンゼは往路より下部に出てしまい、岸が切り立ってトラバース不能だった。往路で通過した地点がこの付近では唯一の通過可能個所らしかった。斜面を攀じ登って往路に合流、その後は忠実に往路を辿ってダルマノ頭へ到着。往復約3時間をほぼ無休憩で歩いたのでそれなりに疲れた。大休止が必要で、せっかくなので地面に接する部分のみ僅かに湿ったテントを再組み立てして虫干しを行った。

 重い大ザックも食料と水がほぼ無くなったので少しは軽くなったが、2日分の体力を使って足は軽くはなく、鞍部からの登り返しはきつかった。好天で気温が上がっているが、温度計を見ると10℃程度しかなく少し風があるだけで心地いい。真夏ならこうはいかないだろう。

 まもなく池口岳南峰に到着するというタイミングで予想外の出来事が。なんと人が下ってくるではないか! これはこの場所では熊に出会うよりも驚きの事態だ。相手は単独の青年で、ザックの大きさからすれば幕営装備だろう。当然ながらこう聞かないわけにはいかない。「どちらまで行きます?」 その答えは驚きで、今日は千頭山を越えて林道まで下って柴沢小屋で宿泊、翌日は光岳方面へ登り返すそうだ! 実際には翌日は雨の中を林道の旧光岳登山口から信濃俣〜大根沢山〜大無間山と歩いて幕営、その翌日に朝日岳へ続く尾根を南下して寸又峡へ下るという大縦走だった。何とマニアックなルート取りだろう。こんな歩き方をするのは私以上の変わり者に違いない。話を聞くとヤマレコユーザーでハンドルネームは「kaisei1027」さんだった。南ア南部や深南部の廃道をあちこち歩いている人で、私も記録を見たことがあった(相手に言われるまで覚えていなかったが・・・ゴメンナサイ)。山小屋で働いていたこともあるそうで、少なくとも南ア南部、深南部については私以上の経験者だった。私のHPも見てくれているとのことでちょっと恥ずかしかった。もちろんDJF氏のHPも見ているとのこと。藪山の物好きが見るサイトは決まっているわけだ。時間も忘れて立ち話、いや、お互いに大ザックを背負っているので後の方は「座り話」をしてしまい、帰宅後にGPSの軌跡で確認したら1時間弱も話し込んでいた。私は下山するだけだったから良かったが、彼にはちょっと悪いことをしてしまったかもしれない。でも池口岳登山道から北峰を越えても私よりも3時間以上早い時刻に池口岳南峰を通過しているのだから、林道に到着するまでの時間は3〜4時間くらいで明るいうちに林道に出られるだろう。明日は雨の予報にもめげずにこんなルートを歩けるのはDJF氏並みのバイタリティーだろう。最後にお互いに写真撮影して分かれた。

 思わぬ井戸端会議がいい休憩となり、池口岳南峰では休憩せず通過。山頂は往路と同じく無人だった。県境尾根の僅かに西側を下ると往路では気が付かなかった目印、踏跡が見られた。

 笹ノ平から往路同様にトラバース、往路より僅かに標高を落とした場所を巻いたようで2050m地点よりずっと先で犬切尾根に乗った。この地点で日曜日の午後ということもあり犬切尾根は本日も無人。1536.3m三角点で最後の休憩。日中で気温は上がっているはずだが日影は寒いくらいで、樹林の隙間から差し込む僅かな日向で体を休めた。

 往路と同じく西側の1530m峰は北側を巻いてしまいシャクナゲ沢コースのある尾根に乗る。下りは微妙な尾根の分岐で間違いやすいが概ね左へ進んでいけば正解。もっとも、目印が多数あるので地図を読まなくても迷うことはないだろう。目印が無くなったら見つかるまで戻ればいい。

 シャクナゲ沢を横断して西側の尾根に乗り移ると傾斜がきつくなり疲れた足には堪える。その急斜面を下っているとまたもや予想外の事態。もう午後2時近いのに登ってくる人がいた! 話を聞くと偵察とのことで納得。口調からして地元の人だと思ったが、林道に止まっていた車が松本ナンバーだったので正解だろう。

 最後に杉植林帯を斜めに下り、往路より東側で河原に出た。こちらの方が歩きやすいルートだった。デポした長靴は健在で往路同様にこれで渡ろうかとも思ったが、この時間は倒木は乾いているので利用することにした。しかし最初から最後まで倒木上を歩こうとすると距離は10mくらいはあってバランスを崩して川に落ちる可能性が高くなるため、飛び石で途中まで川を渡り、2mくらいだけ倒木を利用することにした。しかし一度濡れた靴底では皮が無い倒木表面でツルツル滑って危険極まりないことがわかり、倒木にまたがって短距離を進むことに。おかげで靴を履き替える手間が省けた。

 対岸で濡れタオルで2日分の汗を洗い流す。夏とは違ってほとんど汗をかかなかったと思っていたが、下りでは気温が上がって汗をかいていて拭き取ると爽快! どうせ温泉に入るのだがそれまでを快適に過ごせるのは大きい。

 往路と同じく堰堤右岸を梯子で越えて廃林道らしき終点に。地形図に記載がない廃林道はこのまま川岸沿いに付いているようで、車を置いた林道は一段高いところにあるので乗り移る必要がある。適当な場所で右手の植林帯に突入、複数段の石垣で上部の平坦地と仕切られているがしっかりとした獣道が存在していたので利用させてもらう。出た場所は廃屋のすぐ東の畑らしき平地であった。

 林道に戻り最初の駐車余地に松本ナンバーの軽ワゴンが止まっていた。先ほどすれ違った男性のものに違いない。そこから数分で我がマイカーにご対面。2日目も行程が長く疲れたぁ。帰りは当然のごとく「かぐらの湯」に浸かって本格的に汗を洗い流してさっぱりした。


 まとめ。最大の難関と思われたダルマ崩の迂回路は思ったよりもあっさりと見出すことができ、しかも危険度は予想以上に低かった。藪慣れた人なら問題なく通過できると思う。ただし、このまま寸又川沿いの林道が復活しない限りは、この尾根を使う人は非常に少ないままであろう。そして現状では林道が復活することは無いとのことだ。千頭山はこの先も永遠に静かな山のままであろう。

 

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